中国の伝統料理を探求し、現代に受け継ぐ中国料理店が福岡・博多にほど近い美野島にある。店の名は「巴蜀(はしょく)」。料理人や、食への深い造詣をもつ人が惹かれ集う料理店だ。
四川料理の最盛期と言われる1980〜2000年代のはじめ。
この時期の伝統料理を現代に蘇らせるのは、料理人 荻野 亮平(おぎの りょうへい)氏。料理人になって3年目、言葉も全くわからない状態で中国へ留学し、語学を勉強しながら成都を中心に食べ歩きをして過ごした経験をもつ。帰国後、より本場の味を突き詰めようと飛び込みで門を叩いたのが北九州市小倉の「欣葉(しんえい)」だった。ここで台湾料理を学ぶ中で、料理長(現:小倉の台湾レストラン「麗白」のオーナー)や、中国駐日本福岡総領事館 専属料理師の経歴を持つ料理人(現:同じく小倉にある中国東北料理店「瑛翔楼」の料理長)と出逢い、師事する。
一方で、かつての成都では開発が進みレストランの味が進化し、かつての伝統的な四川料理は縮小して行った。そうして学び、感じた中で自分が出会った時の味をやろう、伝統的な美味しい料理を再現しようと巴蜀を2007年にオープンさせた。
文化を理解した上で、料理は作らないといけない。
親方から云われた言葉を、荻野氏は突き詰め、巴蜀でそのまま体現している。年に一度は中国に赴き、現地の空気を知る。また、伝統的な四川料理を忠実に再現するため文献を読み解き、試行錯誤を重ねながら、中国のあらゆる知人に意見を求める日々を送る。
中でも特筆すべきは、小吃(シャオチー)コース10,000円。なんと品数は40品。前菜からデザートまで全て小皿で提供。あらゆる味覚を刺激し愉しませてくれ、遠方からこのために足を運ぶ客も多い人気のコースとなっている。※小吃コースのみ前日までの要予約。
巴蜀で研鑽を積むスタッフに伝えているのは、常に真剣に、一料理人としてお客様に向き合うこと。料理の技術だけではなく、その土地の文化的な背景を知ることが大切。と語る荻野氏。その一品にストーリーがあるからこそ、人はそこにしかない価値を見出し、料理人は味わいをさらに凌駕する印象を与えられるのではないだろうか。
巴蜀で、中国料理に対する概念が変わるはず。本場の四川料理よりも四川料理らしい奥深い味わいと出会える、訪れる価値のあるお店だ。
writer Chie