老舗と気鋭店が生み出す京料理は、京文化のさらなる隆盛を支えています。京文化を担う料理人にもてなしの心と自身の物語を語っていただきました。
GION SASAKI
祇園 さゝ木
■京都で料理人として生きる
鍛錬の積み重ねとかけがえのない出会い
若い頃は、料理人になるため無心で技術を磨きました。ただ、それだけです。
料理人の道を志すこととなった契機は、学生の頃。家は共働きで、家が友達との溜まり場だったんです。そこで、お腹が空いたなって時に、冷蔵庫のものでご飯を作って振る舞うと「めっちゃうまいな!」と喜んでくれた。人間って美味しいものを食べると自然と笑みがこぼれるんですよ。その時に、こんな自分でも人を喜ばせることができるんだな、と感じたんです。因みに小さい頃はパイロットでしたが、途中でなるの難しいなと悟りました(笑)。
料理人になると決めてからは、修行先ではもう邁進あるのみです。誰よりもスキルを向上させたい、この一点で突き進みました。技術を磨かないと、上のステージには上れませんから。そんな中での大きな出会いが、三つしか歳が変わらない親方でした。今は亡き、その方の仕事に対する姿勢を目の当たりにした時に、衝撃を受けたんです。
それまでは誰にも負けたくないが為、他のお店の料理人に腕前の勝負を挑む道場破りのようなことをしていたのですが、考え方は完全に変わりました。
この人の真似はできない、敵わないなと。
親方との出会いが無かったら、今の僕は存在しないのでは、と思います。
今にして思うと、親方の料理人たる姿を感受することができたのも、それまで自身が努めて高めてきた技術や知見の積み重ねがあったからこそと思います。そのベースがあったからこそ、ものの見方も転換できたと思います。そういった意味でも、運に恵まれていたんでしょうね、本当に。
そうして、身をもって色んな経験をし、出会いがあって、転機があって、大好きな京都で店を持つ事を決めました。大変だったエピソードは色々あるんですが、中でも印象深いのは私がお店を出す時でした。どこの銀行もお金を貸してくれなかったんです。14件行ったんですが、百円も貸してくれなかったんですよ。
しかし現在では、店の若い弟子がお店を出しますとなった時、祇園 さゝ木で(修行)してましたって銀行に伝えたら、それでもう信用されてますからね。自分の開店時と雲泥の差なので、腹が立ちます(笑)ついつい、苦労が足りないのではと思ってしまいますね。
先附 季節の野菜の煮こごりかけ
車海老とやりいか。それぞれの食感と旨みが出汁で引き立つ。
■若き料理人たちへの想い
現在、「祇園 さゝ木」には、弟子は18人います。
一緒に時間を過ごし、話していく中で弟子たちそれぞれの個性の発見がありますね。料理人として生きていく上で、何が大事か、技術以外のもの・・・必要な「感覚」を育んでほしいと思っています。そうなると、接客がやはり一番大事と言えます。お店の子がお客さんと受け答えをする時、もし何か気づくことがあったらさり気なくはいっていってます。
皆にはそんな「感覚」の部分を、日々を重ねて養っていって欲しいです。お客さんがこうやったら喜んでくれるかなを常に考えていると、やがて自分で考えて出来るようになる。そうしたら手がでて、足が動いて、お客さんとコミュニケーションがとれるようになってくるんです。
大事なのは、習うより慣れろということ。
馬には乗ってみよ、人には添うてみよ。という諺にもあるように、何事も自身で経験しない限り真実は解りません。だから、肌で感じていってほしいです。
僕は何か仕事で失敗しても咎めることは一切しません。ただ、お客さんに不愉快な思いをさせた時はそれはもう厳しく叱咤します。でないと、いずれその子自身に返ってくることになってしまいますからね。
料理の技術は鍛錬を積めば、培っていけます。私は、人とのつながりが最も大事と思っています。だから、お店の子たちには、お客さんをもっともっと大事にと伝えていきます。
若鮎の塩焼きの盛り合わせ
みずみずしい葉は初夏を感じさせる。燻された鮎が瞬く間に香り立つ。
■新しい京料理への期待と自身のこれからの役割
歳月の流れを感じるようになりましたね。先日ある集いに参加した時、来場者の中で私が一番上の56歳、最高齢でしたからね(笑)。
もちろん経験はあるので、南京や芋を美味しく調理するというのは若い人には負けません。ただ一つ、「発想力」の点においてだけは、時代を感じずにはいられません。
ある方から「2000年代は、佐々木の時代。しかし大体流行は10年で終わりだというのに、ちょっと長すぎるぞ」と言われました(笑)私自身、京料理の枠を広げたいという想いを少しでも形にすることができたのではと思っています。
有難いことなのですが私としては、次世代の新しい京料理を広げてくれる人が現れることを願ってるんです。これから誰にも予想できない進化を、京料理で見せてくれることを期待しています。
私自身のこれからについてですが、京都の料理人の皆さんの接着剤になれたらと思っています。京都の三代目、四代目と昔から続く料理人たちと、私のように京都を出発点としていく料理人たち、様々な人達を繋いでいきたいです。京都の料理人さんたちのネットワークの架け橋として力になっていくことが僕の役目だと思ってます。そうして、発信力をもった若い人が京都の文化を継承していってくれることが願いですね。
祗園 さゝ木
店主 佐々木 浩氏
1961年滋賀県生まれ。
18歳から滋賀の「臨湖庵」(現在は閉店)をはじめ、複数の店で修業。
1996年に独立。
2006年に2度目の移転。現在に至る。
電話 075-551-5000
店名 祇園 さゝ木
住所 京都府京都市東山区八坂通大和大路東入小松町566-27
URL http://gionsasaki.com/
営業時間 12:00~12:30 / 18:30~
定休日 日曜、第2・第4月曜、不定休
GODAN MIYAZAWA
ごだん宮ざわ
■憧れの京都までの道のり
18歳の頃、観光で祇園にを訪れた時に、魂が震えるような衝撃を受け,「この地で料理を学びたい」と強く思ったのがきっかけです。
京都の街並みの風情であったり、守られてきた伝統が奏でる静寂さと趣き、京都でしか感じることのできない何もかもが心に響きました。
元々実家は神奈川のお寿司屋で、両親が共に働いていたこともあり、小学生の頃から料理することは自然なことでした。跡を継ぐという選択肢もあったんですが、まっさらな状態に身を置いて、いつかは自分のお店をやろうと思っていました。
そして19歳になると同時に、荷物をまとめ家を飛び出し、祇園の料理屋さんの門を叩いたんです。縁もなにもありませんし、どうしたらいいかもわかりませんでしたからもちろん直談判です。見事に出てきた大将に怒られ一蹴されましたね。やる気があれば、働くことができると思ってたんです。京都の街は信用の世界で成り立っており、お店からの紹介がないと修行には行けないんです。そこで初めて、己の考えの甘さを思い知り、京都は特別な世界ということを身をもって勉強させてもらいました。
それからは、京都への憧れを抱きながら、地元である神奈川に戻り料理人としての技術を磨いていきました。京都に行きたいという希望を口にしていると、紹介の機会に恵まれ、京都のホテルオークラの和食店「入舟」をはじめとした京料理のお店で経験を積みました。
自分でお店を持とうと決断したのは、料理長を経た32歳の時です。
たまたまインターネットで物件を見つけて、ここだと思い飛び込んでいきました。お金の心配もありましたが何とかすると。決めたらもう、猪突猛進です(笑)そうして思いが実り、念願の京都に「じき宮ざわ」がオープンすることとなりました。
■京都独特の文化と真摯に向き合う
京都には、今でも脈々とお茶の文化が受け継がれています。京都に来たばかりの頃は、何故お茶のお稽古が盛んに行われているのか解らなかったんです。お茶とは、何だろうと考えていました。料理の修行の中で携わるうちに、茶道の心得は全てに通じ、関わりが深いことが少しずつですがわかってきたんです。
茶の湯の文化が育んだもてなしとしつらいにまつわる美学は「茶懐石 柿傳」で勉強させていただきました。
料理人として歳月を重ねる度に、京都が守り受け継いできた「良きもの」を実感しています。こんなに勉強ができる恵まれた場所は、世界中探しても他には無いのではないでしょうか。
■実直に料理と向き合う中で
宮ざわのエピソード
実は、当初「じき宮ざわ」はカウンターの日本料理のお店ではなく、お茶と焼き胡麻豆腐が味わえる専門店を開こうと思っていたんです。京都の「入舟」で教わった焼き胡麻豆腐に魅了されて以来、この美味しさを少しでも多くの方に広めたいと思っていたんです。ただスペースの関係上、カウンターが最適という結論になりまして…。カウンターでお店をやるんだったら、料理をお出ししようと決めて今に至ります。
はじめは、お店を知って頂く術も無く、お客様が一人も居ない日もありました。けれど、来店して下さった方のブログがきっかけで、そこからひっきりなしに予約の電話が鳴り続けることになったんです。吃驚しましたが有難いことだなと、インターネットの影響の大きさを実感したできごとです。
二軒目となる「ごだん宮ざわ」を開く想定は全く無かったんですが、様々なご縁があり、安心して任せることのできる仲間がいてくれたことも大きかったです。開店を決意したのも信頼できる仲間がいたからです。建築が好きなので、デザインから設計に至るまで自分で考え、自分が好きだと思うものを随所に散りばめています。物件を見つけて三か月後にはオープンを迎えられたのも、大工さんの協力があったからです。
そうして京都の地でお店を始めてから、皆様のおかげ様で10年が経ちました。店が建った時は本当にもう死んでもいいと思いましたね。それぐらい、嬉しくて、感無量でした。そこから年一年積み重ねていって…今は本当に死ななくて、よかったなって思っています(笑)今までと同じく、常に自分自身を鑑みて、普段からの所作に心を配っていきたいです。これからもお客様に美味しく楽しい時間をお届けしてまいります。
自家製のからすみの手打ちそば
器と金色が美しい
十割そばにたっぷりと降りかけられたからすみ。熟成された濃厚な旨味の余韻を堪能しよう。
季節の焼胡麻豆腐
うっすらとした焼き目は香ばしくさっくりと。中のまろやかでとろける食感を愉しむ。うすいえんどうのクリームの緑が鮮やか。通年の定番は胡麻クリームだが、季節ごとの演出が加わることも。夏は、風物詩であるとうもろこしの透き通るやさしい甘さが堪能できる。
宮ざわの名物「焼胡麻豆腐」は、贈答用もあり。上質の葛、みがき胡麻、昆布が使用され、丁寧に練り上げている。調味料は、あくを取りのぞいた塩と蜂蜜のみというこだわりぶり。京友禅和紙が用いられた美しい包装が目を惹く。
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ごだん みやざわ
店主 宮澤 政人(みやざわ まさと)氏
1975年 神奈川県生まれ。
料理店を営む両親の元で育ち、自然と料理人になるビジョンを持つ。
18歳の時、訪れた京都の地に魅了される。
神奈川での修行を経て、「京都ホテルオークラ」和食「入舟」へ。
その後、京都「茶懐石 柿傳」、京都「高台寺和久傳」などで研鑽を積む。
2007年 じき 宮ざわ開店。
2014年 ごだん 宮ざわ開店。
電話 075-708-6364
店名 ごだん 宮ざわ
住所 京都市下京区東洞院通万寿寺上ル大江町557
URL http://www.jiki-miyazawa.com/godan-index.html
営業時間 12:00~13:45 / 18:00~20:00
定休日 水曜日、他